青春ドラマの基本とは何かを考えたら、私は主人公が挫折失敗を繰り返しながら成長していく事だと思う。だから学校を舞台にしなくても、青春ドラマは成立する。事例が古くて申し訳ないが、「太陽にほえろ」もその範疇に入ると思う。マカロニ、ジ−パン、テキサス等の歴代新米刑事が色んな経験、失敗、挫折、喜び、悲しみを経て成長していく。成長しきった頃に殉職、そして次の新米刑事登場・・・。

前振りが長くなったが、今回紹介する作品は「職業ＡＶ監督」。1997年にヤングチャンピオン（秋田書店）で連載されていた原作・カンパニ−松尾、画・井浦秀夫によるＡＶ業界を舞台にした漫画である。

原作者であり主人公のカンパニ−松尾は、現在フリ−のＡＶ監督にしてハメ撮りの第一人者であるが、かつてＡＶ業界の風雲児と呼ばれたＶ＆Ｒプランニングの主力監督の一人であった。

物語は1986年から始まる。専門学校を卒業しＴＶ番組制作会社に入社した主人公・松尾青年。だが１年後会社は倒産。無職になって後どうしようか思案に暮れていた頃、かつての仕事関係で知り合あった人間の紹介である会社に就職する事に。そこが後にＡＶ業界を震撼させるＶ＆Ｒプランニングであった。

見るのも聞くのも初めての世界で、戸惑い失敗を繰り返しながら、松尾はＡＶ監督として成長していく。

連載時は好奇心と偏見で読んでいた私も、作品作りに一生懸命なスタッフの姿を見ている内に胸が一杯になってしまった。愛情と情熱を持って何かを作る姿は業種を問わず感動を呼ぶのかも。

ＡＶ監督として成長していく過程で、松尾はある女性に恋をする。その相手とは当時ＡＶ業界で売れっ子の林由美香。彼女との出会いから恋への発展、そして切なくほろ苦い別れ。（このエピソ−ド途中で、後に林由美香と恋仲になり、「由美香」「監督失格」と撮る平野勝之との火花散らす出会いが、またいい。この平野監督の2作品を鑑賞しながら読むと、さらに立体的&味わい深く楽しめるかも）

それらを経て松尾はＡＶ監督として成長していく。彼が所属する業界の是非は別に置いといて、この作品は私一押しの青春漫画である。

最後に、コミックス１巻収録のカンパニ−松尾氏のセリフで締める。

『別にこの仕事を恥じているわけではありません。

おもしろいやりがいのある仕事だと思っています。

（ふつうのサラリ−マンにはなりたくないと思っていましたから・・・）

いくらオメデタイことだからといって

親は子供にその製造過程を見せたりしません

セックスは割り切れません

美しかったり、みだらだったり、

安らぎだったり、危険だったり・・・

矛盾したままです・・・

だから単なる「悪」だと切り捨てる人も信用できないし・・・

何のかげりもなく賛美する人もどこかあやしい・・・

うまく言えないけど・・・

ＡＶ界で明るくノ−テンキに満足している人には僕は違和感があります。

人前で裸になる仕事はそんなリッパな

いばれることじゃありません。

ヤクザな仕事です。

でもヤクザな仕事はおもしろいし

公認されなくても必要だからこそ

存在するのだと思います。

ヤクザにはヤクザの自負があります。

自分の立場をうまく正当化できませんが

借り物の安全な言葉で無理やり白黒つけるより・・・

曖昧なものは曖昧なまま

自分自身が実感したものを見せる方が

僕には合っているように思います』