20世紀初頭から現代まで，東京はいかに〈まなざしの場〉として経験＝構成されたのか？　街頭，百貨店，映画館，テレビ，テーマパークなど各所における〈まなざしの政治〉を固有の地理的文脈のなかで明らかにし，地政学的展望へと向かう．『都市のドラマトゥルギー』『博覧会の政治学』以降の20年にわたる都市論の集大成！

■著者からのメッセージ

本書は，私が1987年に出版した『都市のドラマトゥルギー』（弘文堂）の続編である． ……この間，14冊の単著とかなり多数の編著書や共著書をまとめてきたが……本書は約30年ぶりに原点回帰し，もともと前作で考えていた現代都市とまなざしの関係史を，戦後東京における可視性の地政学という観点から描き直そうとするものとなった．

前作『都市のドラマトゥルギー』で私が探究したのは，集まりの場であると同時にまなざしの場でもある都市の近代的変容であった．……近代日本の都市化は（おそらく，他国の都市化も），家郷から大都市への人口集中と大都市そのものの内部でのアイデンティティの再編という二つのモメントを内包しており，この二つのモメントがどのように組み合わさっているかを明らかにすることで，従来の都市社会学とは異なる上演論的な都市研究が可能であるというのが前作の主張だった．

『都市のドラマトゥルギー』で示した地平のなかで，本書はその第二局面，すなわち大都市が人々のまなざしを再編していく仕組みに照準している．この人々のまなざしと都市の関係をより深く捉えるために，前作では「盛り場」という街区単位で捉えていた対象を，本書では「百貨店」「映画館」「テーマパーク」「家電のある家」「テレビのある茶の間」といった装置の単位に絞り込んだ．そうすることで，個々の文化装置とそこにまなざしを向ける人々の関係をより精密に分析しようとしたわけである．同時に本書では，前作の弱点の一つであったジェンダーやコロニアリズムをめぐる視点を，中心的な分析軸として埋め込んだ．……

その上で，本書全体の視座を明確にするために，序章と終章は新たに書き下ろした．この二つの章を続けて読んでいただければ，他の諸章を貫く軸線を理解していただけるはずである．この二つ以外の諸章・補論は，過去四半世紀の間に私が書いてきた論文を集めた．

吉見俊哉［ヨシミシュンヤ］

１９５７年東京都に生まれる。１９８７年東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。現在、東京大学大学院情報学環教授。専攻は社会学・文化研究・メディア研究。